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強がった今までと、言葉にならない不安との隙間で

by 鈴木しの

「海外に行ったことないの?意外だね。あっちこっちと、フラフラしてそうなのに」
はじめての海外、と口にしたわたしが幾度も投げかけられた言葉。

意外、だなんて、いったいわたしのなにを見てそう感じるのだろう。
ちょっと横柄な態度だろうか、やたら頼れる(風に見える)大きな身体だろうか。それらはよくわからないけれど、とにかくわたしは「海外に行ったことない、なんてことはなさそうな世の中を知ってる感じの人」と思われているみたいだった。

そんな見かけだけの自分が誰かによって作り上げられていることが、すごく居心地悪くて。
「わかったよ。海外、行ってくるからね」そう告げたのは、じつはもっとずっと前のこと。

行く、とは簡単に口にするのだけれど、今までは結局なにかの理由を見つけて航空券を探す手を止めた。
理由なんて単純で、ただひたすらに怖い。一度飛び立ったら帰ってこれないような、そんな曖昧で独特で知り得ない不安に包まれているから。
今回も、そんな不安で胸がいっぱいになって飛び立つのをやめるような、そんな気もしていた。

けれど。
もう、わたしは「行きたい」よりも強い感情に出会うことがなかった。それは不安じゃなくなったとか、怖さが消えたとか、そんなことじゃなくて。不安だけれど、怖いけれど、それでも行きたくなってしまった、というただそれだけのこと。

不安だって気持ちはあんまり人には話さず、ゆっくりと心の中にしまいこんで。
そのかわり、「本当にちゃんと入国できますかね?」なんて笑いながら、そばにいてくれる人にはほんの少しだけ不安の言葉を漏らした。

今までなんども来たはずの成田空港すら、全然違った場所のように見える。
生まれてはじめての海外に、どうしてひとり旅を選んでしまったのだろうと過去の自分をほんの少しだけ責めた。

ちょうど卒業旅行シーズンということもあってか、大学卒業を迎えた友人に「一緒に行こう」と誘ってもらうこともあったけれど、「現地で少し会えたらいいね」となんとなく濁していた。

恋心を抱いていた海外慣れした彼に「大丈夫?一緒に行こうか?」なんて言われたときにはさすがに心も揺らいだけれど、「きっとわたしと来ても、あんまり楽しめないと思うよ」とやんわり断った。

なにかすごく大きな理由なんかじゃない。きっと、心がそうしたかったのだと思う。
どんなに短い日程だったとしても、できれば「海外旅行」にしたくないと思ったわたしが選んだ選択肢。
いわゆる観光地巡りをするのではなく、気ままに仕事をしながら外に出たいタイミングでふらりと外に出るほうが、なんとなく落ち着く。そんなわたしが選んだ選択肢。

だから、間違ってたくさん抱えすぎた仕事ごと、反省と後悔も合わせて海外に持って行くことにした。
ちょっぴりの期待と、胸がつかえそうなくらいの大きな不安と、ぜんぶまとめてリュックサックの中に押し込んで。

飛行機が飛び立つ瞬間の「ゴゴゴゴッ」と身体が疼く瞬間には慣れてくれないわたしの心に、「大丈夫だよ、たったの4日間でしょう?」と投げかける。想像よりもずっと、日本人以外の乗客が多いフライトだった。知らない言葉の飛び交う機内で、知ってる言葉を探してそっとイヤホンを耳へと運ぶ。

もうすぐ、もうすぐ、知らない土地に、人に、会うそのときがやってくる。


鈴木しの
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