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今この瞬間に、日本語がふわりと消えてしまったら

by 鈴木しの

飛行機が離陸すると、スマートフォンの画面から4Gの文字が消える。それを合図に、機内モードへと切り替えた。次に電波をキャッチできたのは空港に到着するお昼過ぎ、つまり約3時間後だった。

ほぼ予定通りの時刻に到着した飛行機を降りて空港に一歩足を踏み入れると、ひとまず慣れた手つきでWi-Fiをオンにする。メッセージが次から次へと小さな画面に映し出される。一見関係のないようなメッセージから、連絡が途絶えたことを心配する仕事関連のメッセージまで、幅広く。必要最低限の分だけ連絡を返したら、あとは手短に家族と友人に向けて到着した旨を送信する。

出発前、ことあるごとに「ちゃんと入国できますかね?」と笑って不安をごまかした入国審査は、取り越し苦労にもほどがあるほどあっさりと終わってしまった。

入国審査を済ませて到着ロビーに降り立つ。次にどこへ向かったらいいのかわからず、とりあえずあらかじめ予約しておいたWi-Fiルーターを受け取って中心地・台北へ向かう交通手段を探す。空港から台北までは、バスで40分ほどと聞いていた。

人がそこそこに集まるチケット売り場に並んで、一番安いチケットを指差す。「何枚いるの?」の問いに“ひとつ”とジェスチャーで答える。今この瞬間この場では、日本語がなにかの助けになることはないのだな、と当たり前のことを感じながらチケットを受け取った。

乗り込んだバスは、想像よりも荒ぶった仕様だった。ガシャン、ガシャン、となぜか金属音がする。シャララララ、とバスが走るたび窓際のカーテンレールのパーツだろうか、鳴り響く。全身で「こわい」と感じて、スマートフォンを握りしめる左手にぎゅっと力が入る。気持ちを紛れさせるためだけに、SNSを開いては閉じた。

40分ほど揺られただろうか。途中で幾度かバス停に停車しながらも、終点の台北駅へとバスが停車した。周りの乗客と共に、バスをそろりそろりと降りる。先ほどまで派手に運転していたはずの運転手のおじさんが、バスのステップで「気をつけてね」と優しく手を添えてくれていた。そんなに綺麗な微笑みで人に優しくしてくれるなら、運転も優しくしてくれたらいいのに、なんて思いながら軽い会釈を交えて「シェイシェイ」と返す。

降り立った台北の地は、身体にじわりとはりつくような、春でも夏でもない独特の陽気だった。


鈴木しの
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